大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)10575号 判決 1988年2月29日
原告
大林産業株式会社
右代表者代表取締役
小塩定文
右訴訟代理人弁護士
福村武雄
同
村田勝彦
被告
森本土建株式会社
右代表者代表取締役
森本日出男
右訴訟代理人弁護士
平松耕吉
主文
一 被告は原告に対し、金一六〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一二月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨並びに仮執行宣言
二 被告
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告は宅地造成工事の請負等を業とする会社であるところ、昭和五三年七月ころ、中央住建株式会社(以下、中央住建という)から、三重県名張市赤目町壇字横山の実測面積18089.14平方メートルの宅地造成工事を請負い、昭和五五年四月三〇日右工事を完成した。
右造成工事中には、外周の崖面に擁壁を施す工事も含まれていた。
2 原告は昭和五六年五月二八日、野口進から、被告の造成にかかる別紙物件目録記載の土地(以下、本件各土地という)を含む六筆の土地を三二九二万円で購入した。但し、所有権移転登記は中間省略登記により、前所有者の中央住建から原告に直接なされた。
3 原告は本件各土地を左記のとおり第三者に売却した。
(一) 昭和五六年五月二五日に南栄彦に対し、本件(一)の土地を代金九三一万八〇〇〇円で売却。
(二) 同年一二月一六日に天野昭に対し、本件(二)の土地を代金九二九万五三〇〇円で売却。
(三) 同年七月一五日に中島義勝に対し、本件(三)の土地を代金八四四万八六〇〇円で売却。
(四) 同年五月二四日に阿久津義雄に対し、本件(四)の土地を代金一〇〇一万四四〇〇円で売却。
4 昭和五七年八月初めころ、本件各土地に施された擁壁(以下、本件擁壁という)が損壊した。
5 本件擁壁が損壊したのは、被告の施工した擁壁の構造に欠陥があったためである。
すなわち、中央住建は擁壁の構造について図面を作成し、図面に記載された構造どおりの擁壁を施工することを条件として宅地造成の許可を受けたが、本件擁壁には行政庁の許可基準を下回る、次のような安全性を無視した手抜き工事が行われていた。
(一) 擁壁の基礎コンクリートの幅は八四センチメートルとすべきところ、現実には五二ないし六五センチメートルしかなかった。
(二) 擁壁底部(基礎コンクリートとの接合部)の幅は八〇センチメートルとすべきところ、現実には五〇センチメートルしかなかった。
(三) 行政庁への許可申請図面にはU字溝が記載されていないのに、現実には本件擁壁の地盤面に、壁面に沿ってU字溝が設けられている。
ところで、U字溝を設ける場合には、擁壁の根入れの深さは申請図面記載の七五センチメートルでは足りず、さらにU字溝の深さの分だけより深くすべきであったにもかかわらず、現実には根入れの深さはU字溝の深さ分を加えておらず、約一〇センチメートル余短かかった。
(四) 申請図面では、擁壁の天端と水平に宅地面が構成されるよう図示されている。
しかるに、現実には、宅地面は擁壁の天端から一ないし二メートル盛土されている。
このため、盛土されている分だけ余分の土圧が擁壁にかかる結果となっていた。
(五) 水抜きパイプは、直径七五ミリメートルのものが予定されていたのに、現実には、直径六〇ミリメートルのものが使用されていた。
(六) 本件擁壁の下端部は僅かな幅の地盤を残すのみで、更に崖面が構成されているため、安定性を欠いていた。
このように、本件擁壁の工事は行政庁の定めた許可基準を下回る杜撰なものであり、本件擁壁が完成後約二年余という短期間で損壊したのは、その構造に重大な欠陥が存在したためである。
6(一) 本件の宅地造成は、工事注文者である中央住建が自用に供する目的でなされたものではなく、完成された宅地を一般に分譲する目的でなされた。
(二) 被告は右宅地造成にあたり、工事注文者である中央住建以外の第三者が最終的に宅地を取得し、これを利用することを知っていた。
このような場合、造成工事をなす被告としては、最終の需要家に対し、生命、財産に対する損害を生ぜしめないよう配慮すべき注意義務が存したというべきである(一種の製造物責任の法理)。
また、被告は、創業が昭和三五年ころで、法人化したのが昭和四七年という宅地造成の専門業者であり、右の如き注意義務が課せられたとしてもこれを十分履行できる能力を備えていた。
(三) しかるに、被告は、前述のとおり、行政庁への許可申請図面の要件を大幅に下回る工事をなし、このため、本件擁壁の損壊を招来した。
したがって、被告は、原告に対し、原告が本件擁壁の損壊によって被った後記損壊を賠償する義務がある。
7 原告は本件各土地の購入者である南らから損害賠償請求事件を提起されたところ、南らとの間で、原告の費用で損壊した擁壁を修復することを基本とする裁判上の和解が成立する予定である。
ところで、右修復工事代金としては、一六〇〇万円を要する。
8 よって、原告は、被告に対し、民法七〇九条に基づき、右金一六〇〇万円及びこれに対する不法行為後である昭和六〇年一二月二七日(本訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1項のうち、被告が宅地造成工事の請負等を業とする会社であること、被告が昭和五三年七月ころ、中央住建から三重県名張市赤目町壇字横山の土地の擁壁工事を含む宅地造成工事(但し、排水工事を除く)を請負い、これを完成させたことは認めるが、工事対象面積及び工事完成日は不知。
2 同2項は不知。
3 同3項の、原告が南らに本件各土地を売却したことは認めるが、その日時や対象土地、売買代金については知らない。
4 同4項は不知。
5 同5項のうち、本件擁壁に使用されている水抜きパイプの直径が六〇ミリメートルであったことは認めるが、本件擁壁の構造に欠陥があったことは否認し、その余は不知ないし争う。
本件各土地においては、地上排水設備が不備で、雨水が西表道路側には排水され難く、東裏の擁壁側に度々流下することがあり、殊に、多雨量の場合には、擁壁側への排水負担が過度に増大する状況であり(右排水工事は、中森建設が中央住建から請負い、施工したものである)、さらに、本件各土地を買受けた南らは排水管理を怠っていたとの事情があったところに、台風による集中豪雨(大雨)があったため、擁壁の破損が生じたものであり、被告の施工した擁壁の構造には何らの欠陥も存しなかったものである。
6 同6項の、被告の責任は否認する。既述のように、本件擁壁には何らの欠陥も存しなかったものであるから、被告には本件擁壁の損壊につき何らの責任もない。仮に、本件擁壁に何らかの欠陥があったとしても、被告は、三重県の許可をえた中央住建の指示どおりに工事を施工したものであり、また、被告としては、集中豪雨(大雨)による擁壁の損壊の発生の恐れを予見することは困難であるから、これを予測しえずに、中央住建の指示、指導どおり工事を施工したからといって、その結果について被告に責任が生ずるものではない。
7 同7項の損害の発生及びその額は争う。
三 抗弁
仮に、本件擁壁の損壊につき被告に責任があるとしても、原告にも被害の発生につき過失がある。
すなわち、中央住建及び本件各土地を購入した原告、原告から本件各土地を買受けた南らは、本件集中豪雨当時もしくは本件集中豪雨に至るまでの間、本件擁壁上部宅地や法面、下部U字溝の排水管理を十分に尽くしておらず、また、本件集中豪雨当時も危険な状況であることを認識しえたにもかかわらず、中央住建や原告、南らにおいて、本件各土地に生じていた本件擁壁の下部U字溝及び側面里道の決壊を伴なう大量の土砂流出を放置していたものであるから、本件損害については右過失を斟酌すべきである。
四 抗弁に対する認否
争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求原因1項につき判断する。
同1項のうち、被告が宅地造成工事の請負を業とする会社であること、被告が昭和五三年七月ころ、中央住建から、三重県名張市赤目町壇字横山の土地の擁壁工事を含む宅地造成工事(但し、排水工事を除く)を請負い、これを完成させたことは当事者間に争いがない。
そうして、<証拠>によれば、被告が中央住建から請負った宅地造成工事の対象土地の面積は18089.14平方メートルで、右工事は昭和五五年四月三〇日完成したことが認められる。
なお、<証拠>によれば、排水工事は中森建設株式会社が施工したと認めることができる。
二同2項につき検討する。
<証拠>によれば、同2項の事実が認められる。
三同3項につき判断する。
原告が南らに本件各土地を売却したこと自体は当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は南に対し、昭和五六年七月七日本件(一)の土地を代金九三一万八〇〇〇円で、天野に対し、昭和五七年一月一一日本件(二)の土地を代金九二九万五三〇〇円で、中島に対し、昭和五六年七月二八日本件(三)の土地を代金八四四万八六〇〇円で、阿久津に対し、昭和五六年六月八日本件(四)の土地を代金一〇〇一万四四〇〇円でそれぞれ売却したことが認められる。
四同4項につき判断する。
<証拠>によれば、同4項の事実が認められる(なお、正確には、本件擁壁が損壊したのは昭和五七年八月一日であると認められる)。
五同5項(本件擁壁が損壊した原因)について検討する。
1 <証拠>によれば、台風一〇号の接近に伴い、昭和五七年八月一日から本件各土地を含む本件宅地造成地一帯に多量の降雨があり、本件宅地造成地に近い名張観測所では、八月一日二九五ミリメートル、同月二日三九ミリメートル、同月三日一二〇ミリメートルの降水量を記録したこと、殊に、八月一日の午前三時から午前四時までの間には四六ミリメートル、午後九時から午後一〇時までの間には二三ミリメートル、午後一一時から八月二日の午前零時までの間には三〇ミリメートル、八月三日の午前四時から午前五時までの間には二五ミリメートルという降水量であったこと、台風一〇号による風雨のため、三重県では多くの被害が出、上野市や名張市を管轄する上野土木事務所管内では、河川や砂防、道路などに多くの被害が出たことが認められる。
右事実によると、台風一〇号による集中豪雨が原因で、本件擁壁の損壊が生じたのではないかとの考えが出てくるかも知れない。
2 しかしながら、<証拠>によれば、次のとおり認められる。
(一) 中央住建は本件宅地造成工事の許可申請をなすにあたって、三重県知事に対し、甲第九号証の申請図面を提出したが、同図面によれば、擁壁工事は全造成地について同一構造の擁壁を施工するようになっていた。
しかるに、中央住建は現実に擁壁工事をなすについては、本件各土地より北側部分にある造成地(甲第五号証添付二枚目図面に記載されているfile_3.jpg〜file_4.jpg間の部分、以下、単にfile_5.jpg〜file_6.jpg間とのみいう)と本件各土地より南側部分の造成部分(右図にfile_7.jpg〜file_8.jpgと記載されている部分、以下、単にfile_9.jpg〜file_10.jpg間とのみいう)とで、施工する擁壁の構造に違いを設け、被告に対し、file_11.jpg〜file_12.jpg間では申請図面どおりの擁壁工事を行うよう指示する一方、file_13.jpg〜file_14.jpg間では、基盤が強いという理由から、申請図面記載の擁壁の構造より構造的に弱く、大きさも小さい擁壁を施工するよう指示し、被告は右指示どおりの擁壁工事を行って、指示どおりの擁壁を築造した。
しかして、中央住建がfile_15.jpg〜file_16.jpg間及びfile_17.jpg〜file_18.jpg間で異なる構造の擁壁を施工するとして、三重県知事に対し、甲第九号証以外の許可申請図面を提出した形跡はない。
このように、本件擁壁は申請図面とは異なる構造になったが、申請図面に記載された擁壁と本件擁壁との差異を述べると以下のようになる。
(二) 許可申請図面によれば、本件擁壁の高さは五メートル以下であり、基礎コンクリートの幅は八四センチメートルとされていた。
しかるに、現実に設けられた本件擁壁の基礎コンクリートの幅は五二センチメートルから六五センチメートルしかなかった。
(三) 申請図面によれば、本件擁壁の底部(基礎コンクリートとの接合部)の幅は八〇センチメートルとされているところ、現実には約五〇センチメートルしかなかった。
(四) 申請図面にはU字溝の記載がないのに、現実には、本件擁壁の地盤面に、本件擁壁に沿ってU字溝が設けられている。
ところで、U字溝を設ける場合には、擁壁の根入れの深さは地盤面からの深さではなく、U字溝の底部を地盤面とみなして、同所からの深さを必要とする。
しかして、申請図面によれば、根入れの深さは地盤面から七五センチメートルとされているから、U字溝を設ける場合には、U字溝の底部から七五センチメートルの深さが必要であったところ、現実には、U字溝の深さ分を考慮せずに施工されたため、根入れの深さは約六六センチメートルしかなかった。
(五) 次に、申請図面によれば、本件各土地の宅地面は擁壁の天端(土端部分)と水平になっており、盛土による法面は設けられないようにされているのに現実には、盛土されて法面が設けられており、その高さは一メートルから高い所では四メートルもあった。
したがって、盛土された分だけ土圧が擁壁にかかるので、擁壁の構造についても、盛土が予定されていない構造で十分か否か再検討の必要があったのではないかと思われる。
殊に、申請図面の記載より構造的に弱いと思われる本件擁壁については何らかの補強の必要が生じたのではないかと推認しうる。
(六) 基礎コンクリートの上端部にあたるつば先では、申請図面では一五センチメートルになっているところ、実際には一二センチメートルしかなかった。
(七) 本件擁壁に使用されている栗石やコンクリートの量は、擁壁の安全性の点からみて、少なすぎると思われた。
(八) 擁壁上に盛土をして法面を造る場合には、湿り気のない土を使用するのが望ましいところ、本件擁壁上の法面には比較的ねばっこい、水はけの余りよくない土が使用されていた。
(九) 擁面が破損した箇所の法面は、裸面ではなく、高さ約五〇ないし六〇センチメートルの芝や雑草が茂っていた。
(一〇) 本件各土地については、盛土をした箇所の段切りや伐根が十分になされていなかった疑いがある。
(一一) 本件擁壁の破損の状況は、まず、擁壁が約五〇ないし六〇センチメートル地中に陥没して食い込むように崩れ、擁壁に縦に亀裂が生じているものがあった。このような破損箇所では、擁壁の上の法面が下がっており、また、擁壁に沿って設けられたU字溝も下がっていた。
次に、擁壁が前面(東側)に押し出されている箇所や反対に、宅地側(西側)へ傾いている箇所もあった。
さらに、擁壁の底に穴があいて擁壁の栗石などが流出している箇所もあったが、それは、擁壁の根入れが浅いことや根入れの幅が狭いことに原因があったものと思われる。
(三) 被告が施工した擁壁のうち、file_19.jpg〜file_20.jpg間に造られた擁壁は何ら破損せず、本件擁壁を含むfile_21.jpg〜file_22.jpg間に造られた擁壁のみが損壊した。
このように認められる。
3 右に認定した本件擁壁の構造、file_23.jpg〜file_24.jpg間に設けられた擁壁との構造のちがい、本件擁壁の破損の状況、本来予定されていなかった盛土が本件擁壁の上部になされた事実や右盛土に用いられた土の質、file_25.jpg〜file_26.jpg間に比べ、より多くの盛土がなされたfile_27.jpg〜file_28.jpg間では、許可申請図面の記載どおりに施工された擁壁の破損は生じなかったことなどから考えると、本件擁壁が損壊したのは、その構造に欠陥があったからであると認めるのが相当である。
本件擁壁が設けられた部分を含むfile_29.jpg〜file_30.jpg間は、基盤が強いとの理由から、許可申請図面記載の擁壁に比し、構造上劣った擁壁が造られたため、台風による集中豪雨に耐え切れず、本件擁壁は損壊したといえる。
file_31.jpg〜file_32.jpg間に設けられた擁壁に比べ、本件擁壁が構造上劣っていることは先に認定したところにより明白である。
file_33.jpg〜file_34.jpg間に造られた擁壁が損壊しなかったことからみて、file_35.jpg〜file_36.jpg間にも許可申請図面に記載された構造を有する擁壁が設けられていたならば、擁壁の損壊は生じなかったものと推認しうる。
台風一〇号による降雨量が本件宅地造成地付近では著しく多かったことは先にみたとおりであるが、我が国においては、このような多くの降雨があることは予想しえぬことではないから、本件擁壁の損壊の原因を台風一〇号による降雨量に帰するのは相当ではない。
六そこで、同6項(本件擁壁の破損につき、被告に責任があるか否か)について判断する。
なるほど、<証拠>によれば、被告は中央住建の指示どおりに本件擁壁を含む擁壁工事を行ったことが認められる。
しかしながら、一方、<証拠>によれば、中央住建は、本件各土地を含む本件宅地造成地を、中央住建自らが使用する考えはなく、宅地分譲地として第三者に販売する意図であったこと、そうして、被告は、擁壁工事を含む本件宅地造成工事を行うにあたり、中央住建が右造成地を宅地分譲地として販売する意図であり、最終的には、中央住建以外の第三者が宅地分譲地としてこれを取得し、利用するようになることを知っていたものと認めることができる。
したがって、右の事実に鑑みると、本件宅地造成工事を施工する被告としては、たとえ、注文者である中央住建の指示どおりの工事を行うとはいえ、被告の行う造成工事(擁壁工事を含む)に欠陥があり、そのため、本件各土地を含む右造成地を宅地分譲地として取得し、利用するようになる第三者の権利を侵害したり、あるいは第三者にとって違法な事実が発生することがないよう配慮すべき注意義務を負担していたものということができる。
そうして、<証拠>によって認められる、被告は、以前は個人業であったが、昭和四七年ころ会社組織になった土木建築請負の専門業者であり、本件宅地造成工事まで相当数の土木建築工事を手がけていたと思われるとの事実に、被告は、本件擁壁を含むfile_37.jpg〜file_38.jpg間に設けられる擁壁が許可申請図面記載の構造を有する擁壁ではなく、それよりも構造上劣ったものであることを知っていたとの事実(右は、証人森本の証言によって認めうる)を併せ考えると、被告は前記注意義務に違反して本件擁壁を造ったものというべく、したがって、被告は本件擁壁の損壊につき過失があったと認めるのが相当である。
file_39.jpg〜file_40.jpg間に施工する擁壁について、中央住建が甲第九号証の許可申請図面と異なる図面を三重県知事に提出したと認め難いことは既にみたとおりである。
また、証人丸田哲治は、右擁壁工事の一部変更について、中央住建は本件宅地造成工事現場に来ていた三重県の宅地造成指導課の係員の承諾を得たかのように供述するが、事実が右供述どおりであったとしても、それによって被告の過失が否定されるものではない。
七そこで、抗弁につき判断する。
被告の主張は、原告の過失のみならず、第三者である中央住建や南らの過失をも内容とするものであり、原告に対する主張として妥当といえるか疑問がなくはないが、この点を措いても、本件全証拠によるも、被告が主張するような排水管理が十分に尽されていなかったなどの事実は、これを認めることができないから、結局、抗弁は失当である。
八原告の損害について検討する。
<証拠>によれば、原告は南らから本件擁壁の損壊を理由とする損害賠償等請求事件(大阪地方裁判所昭和五八年(ワ)第九一九九号)を提起され、昭和六一年五月七日南らとの間で、裁判上の和解を行ったこと、右裁判上の和解においては、本件各土地と本件擁壁について、原告による修復工事が完了したことが確認されたこと、原告は右修復工事を林産業株式会社に注文し、林産業が修復工事を行ったこと、原告は昭和六一年五月一日林産業に対し、右工事代金一六〇〇万円を支払ったこと、林産業が行った修復工事中には、擁壁工事だけでなく、土工事や排水工事も含まれているが、土工事や排水工事も擁壁の築造、維持に不可欠の工事であり、したがって、本件擁壁の損壊に伴う修復工事の一部とみられること、このように認められ、右認定に反する証拠はない。
右認定によれば、本件擁壁の損壊による原告の被った損害は一六〇〇万円と認められる。
九以上、論述してきたところによれば、被告に対し、不法行為による損害金一六〇〇万円及びこれに対する不法行為後である昭和六〇年一二月二七日(本訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由がある。
よって、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して(仮執行宣言はこれを付さない)、主文のとおり判決する。
(裁判官武田和博)
別紙物件目録
(一) 名張市赤目町壇字横山六壱〇番五〇
宅地 203.04平方メートル
(二) 名張市赤目町壇字横山六壱〇番五壱
宅地 202.54平方メートル
(三) 名張市赤目町壇字横山六壱〇番五弐
宅地 183.89平方メートル
(四) 名張市赤目町壇字横山六壱〇番五参
宅地 218.38平方メートル